駒込の蕎麦いなり、記事に書けなかった本当の狙いとは?

先日「メシ通」で記事が公開されて、おかげさまで反響の大きかった駒込にある「蕎麦いなり」。取材当日はずいぶんいろいろな話を聞いたんですが、なかなか記事内に盛り込むことはできなかったんで、この場で補足のような形であれこれ書いてみたいと思います。

醤油を味わえる蕎麦

まず、なんでこんな変わった蕎麦を作ったのかなんですが、理由のひとつにいろいろなもり汁を楽しんでほしいというのがあったとのことなんです。記事に書きましたが「蕎麦いなり」では現在、もり汁が4種類あります。

まず、普通の「本かえし」、醤油に火を加えていない「生かえし」、みりんを多めにした「御膳かえし」、そして江戸時代初期に食べられていた「煮抜き」。ちなみに煮抜きというのはまだ濃口醤油が手に入りにくかった頃に使われていた汁で、ダシと酒、味噌を合わせた汁に大根おろしの絞り汁を入れたものです。

これが煮抜き汁

 

まぁ、ここまでかえしをそろえる店というのもないわけなんですが、上記のかえし3種を試して得た感想が「醤油って美味しいよね」というものだったんです。よく関西の人が東京のツユを評して、「真っ黒で醤油の味しかしない」とか言うじゃないですか。でもね、こう言い返したいんですよ。「濃口醤油の美味しさが分からないんですか?」って。もちろん出汁も入っているから「醤油の味しかしない」というのはそもそも間違っているわけなんですが、醤油ってそもそも発酵調味料ですから、それだけで旨味はたっぷり含まれているわけなんですよ。そのことを「蕎麦いなり」であらためて、認識しましたね。

世界で食べられる蕎麦

蕎麦の世界進出。なにも「蕎麦いなり」さんだけが考えていることじゃなくて、いろいろな人たちが海外に出店しています。ただ、やっぱりラーメンにはかなわないんですよね。

日本のラーメン店はすでに海外で大きな成功を収めていますし、外国人観光客も日本に来たら蕎麦よりラーメンを食べたがる人が多いでしょう。そんな人たちを蕎麦のほうに引っ張ってくるには今までのようにジャパニーズスタイルの蕎麦を提供するのではなく、あえてラーメンに寄せて蕎麦を作ってみようと、「蕎麦いなり」は考えたわけなんです。

そのためにツユもカツオだけでなく、煮干しにしいたけ昆布にあさりと旨味成分を取り揃え、鶏と鴨の脂でコクを出したわけなんですね。稲澤社長は昆布を使ったツユを「邪道」と言っていましたが、こちらのほうが世界基準で見たら、万人受けする味なんだと思います。蕎麦のツユですが、カツオだけでダシをとるのは江戸時代に確立された調理法で、全国的に見れば昔から昆布を使う地域もあるんですよ。美味いにこしたことないので、なにもカツオだけにこだわらなくてもいいんじゃないかと、最近は個人的に思っています。

「蕎麦いなり」の面白さは、なかなかひと言で言い表せなくてもどかしいのですが、とりあえず「醤油」と「世界基準」ということを頭に入れて食べてみると、「なるほどなぁ」と納得できるかなと。まぁ、単純に美味しいだけではなく、ずいぶんとマニアックな事情になっているんで、誰でもというわけにはいきませんが。まぁ、あくまで私見ですけどね。記事に書けなかったことを書けてスッキリしました。

 

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